第一部(科学編)進化とは何か?

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第一章:中立進化説の真の意義(前半)

現在「中立進化説」という言葉の知名度を調べたらどういうことになるか?「聞いたこともない」と答えるか、一応勉強したから知っているという人でも「自然淘汰説ほど重要ではない」と答える人がほとんどだろう。これがどれほど異常なことかを先ず理解して頂く必要がある。例えば「分子時計」という言葉の知名度と比べてみると、こちらは大学入試の頻出問題だから、これが現代進化理論の必須概念であることは誰もが認めるだろう。

分子時計とは様々な二つの生物種間において、両者の分岐年代とDNAの塩基配列の差の大きさが正比例するという観測事実から、例えばヒトとチンパンジーの分岐年代は約500万年前と推定できるとする理論である。これは先ず観測事実から経験的に確立した理論であるが、なぜそうなるのかという理論的根拠は中立進化説によって初めて与えられたのである。従って、分子時計を便利に使っている人は中立進化説を認めているのと同じであるのに、なぜ中立進化説を自然淘汰説に代わる定説と認めることができないのか?

それはもちろん自然淘汰説が既に現代のカルトとなって人々を洗脳し尽くしているため、その正統信仰だけは全く疑わない思考停止によるものである。ここで中立進化説の正しさを証明する方法は二通りある。それは創始者の木村資生博士の示した数式をそのまま説明する方法と、もう一つはもっと単純明快にエクセルのマクロでシミュレートしてしまう方法である。数式もコンピュータも難しいが現代人にはコンピュータが身近だろうと思う筆者の独断と偏見で、シミュレーションから説明し、数式でQEDということにしたい。

[中立進化説のシミュレーション]

リンクしたVBAコード(DAOの古いdatabaseを使って書いたが今でも十分動くだろう)を簡単に説明する。奇数世代Aと偶数世代Bの遺伝子プールを配列で確保し、第一世代Aの一要素だけを突然変異させる。後はA→B、B→Aと交互に重複を許すランダムコピーを突然変異遺伝子が生き残っている限り繰返すという全く単純なプログラムである。遺伝子プールというのは集団遺伝学の用語だが、例えば毎世代が千個体で構成される種を考えると、一個体が父由来と母由来の遺伝子を持つので、その種の中には二千個の遺伝子が保有されている。その毎世代二千個の遺伝子の集合を遺伝子プールと呼ぶのだ。

ここで様々な疑問が出ると思うが、個体数が毎世代同じというのは無理な設定ではない。安定に存続できる種を仮定すれば、絶滅も人口爆発もしてはならないので、平均的に同じ個体数で推移するはずだからである。また二千個の遺伝子というのは、DNA上の特定の部位の遺伝子のみに注目している。進化は全部位で起きるが、注目部位で起きた突然変異のみを見て、それが毎世代の繁殖で遺伝子プール内の数を増やし、最終的に二千個全てを自分のコピーにする(これを固定と呼ぶ)までの過程をシミュレートするのである。

このシミュレーションの実行結果の一例を表1-1に示す。初代の遺伝子プールに存在した二千個の遺伝子の運命は全く平等で、何世代掛かろうとも最終的に自分のコピーだけが全個体に共有される(固定される)可能性を各自が等しく持っている。ゆえに、その中の一つに発生した突然変異の固定確率は二千分の一である。実際に一万回の試行で五件の突然変異が固定に成功した。最終的に固定するまで平均で何世代掛かるかも中立進化説で明確に算出されていて、それは個体数の四倍つまり四千世代である。実際、表1-1の固定例の最終世代数3175, 5597, 1875, 4274, 4727の平均を計算すると3929.6世代となる。

シミュレーションというのは実に見事に理論を実証してくれるものだなと筆者は思った。現実の生物種の進化の歴史において起きているのはこういうことであって、生存に有利な突然変異が決定論的にどんどん子孫を増やして必然的に固定するなどというのは全く有り得ない幻想である。ダーウィニストは例えば「1%の生存の有利さ」などという幻想を平然と語るが、突然変異遺伝子の創始者の子供のうち二個体が生存したとして、突然変異を受け継ぐ個体数は0~2で、1の現状維持が50%、0の消滅か2の倍増がそれぞれ25%の確率というまさにギャンブルで「1%の生存の有利さ」など(あったとしても)無に等しい。

表1-1に戻って、先ず一万個の突然変異遺伝子の運命はほぼ全て消滅である。実際、消滅世代を見ていくと2世代までに半数以上の5438個が消滅し、8世代までに8162個つまり80%以上が消滅している。一方、4274世代で固定に成功した突然変異遺伝子の不屈の歩みを図1-1に示した。先ず数世代で消滅して当然の運命を順調に乗り越え、2600世代辺りでほとんど固定しかけて沈んだが、さらに持ち直した遺伝子の驚くべき強運が見える。ここに遺伝子自身の有利さは何の関わりもなく、ただ全く天与の運勢による結果である。

[表1-1]中立進化シミュレーションの一例

計算打切件数0 
消滅世代消滅件数件数累計
137663766
216725438
39136351
45856936
54647400
63317731
72587989
81738162
91658327
101418468
111068574
12838657
13928749
14698818
15518869
16618930
17578987
18469033
19569089
20519140
21~90468559995
固定例  
3175世代 
5597世代 
1875世代 
4274世代 
4727世代 

東工大電子工学科卒、電気工学修士取得
米国の神学校に留学、宗教教育修士取得

政教分離は西欧の特殊事情によるもので、
もちろん、カルトは排除されるべきだが、
政治には健全な宗教性が絶対必要である。

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