中立進化説の正しい理解

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現代人は、ヒトとチンパンジーが共通の先祖から約500万年前に分岐したということをゲノム比較から知ることができる。ここで使われている「分子時計」という技術は中立進化説(中立説とも呼ぶ)の応用であるから、中立説は既に確立した真理として認められているのだ。しかるに、中立説の存在も、中立説が自然淘汰説を完全に否定したという事実も、一般に全く知られていない(というより意図的に隠蔽されている)。巷に流布する進化論の解説では「中立説も認めるが自然淘汰説とは矛盾しない」と軽く扱った上で、平然と自然淘汰説を教え続けている。自然淘汰説とはこのような欺瞞に満ちたカルトなのである。

中立進化説の生みの親である木村資生博士は次のように極めて重要な指摘をしているのだが、現在、この指摘の正しさを理解できる人が一体どれほど居るのだろうか?念の為に、一から考え直してみよう。

常識からすると、生存に有利な突然変異が一個集団内に出現すれば、それは必ず(確率一で)集団全体に拡がるように思われるが、実際にはそうでない…その理由は、出現後の数代はその突然変異遺伝子は偶然によって集団から失われる確率が大きいためである…このことは今でも多くの進化の議論で見すごされている。

木村資生『生物進化を考える』岩波新書、p.38

突然変異遺伝子は、多数の同種個体のうちの1個体が創始する。この「創始者は1個体」という重大な事実を軽視してはならない。その個体が父あるいは母となって子を産んだ時、突然変異遺伝子がその子に受け継がれる確率は50%である。なぜなら、有性生殖をする生物は父由来と母由来の二つの対立遺伝子を持っており、突然変異というものは最初その片方にのみ存在する(これをヘテロ接合と呼ぶ)ので、二つのうちどちらが子に受け継がれるかは全くの偶然で定まるからである。従って、せっかくの突然変異も、ほぼ半数の子供にしか受け継がれず、誰にも受け継がれなければ一代で消滅してしまう。

ここで、実際には「生存に有利な突然変異」など存在しないのだが、百歩譲って1%有利な突然変異遺伝子があったとしよう。ここでまた常識的思考では、魚の繁殖のように大量の子供が生まれるイメージで、そのうち201個体が生殖年齢まで生き残れば、有利な突然変異遺伝子を受け継いでいる者といない者の比率は101対100になり、これを何代も繰り返せば勢力を増やせると考えるだろう。しかしそんな繁殖をしたらあっという間に人口爆発してしまうので、平均的には一組の夫婦の子供の中で生き残るのは2個体程度でなければならない。それで、創始者の夫婦の子供が2個体生き残った場合を考えよう。

すると、2個体の子供の片方だけが突然変異遺伝子を受け継ぐ現状維持の確率が50%で、誰も受け継がない確率も25%あり、1%の有利さが効果を現すほど増える前に数代で消滅してしまうのがほとんどの突然変異遺伝子の運命となる。しかるに「1%の生存の有利さがあれば、その突然変異遺伝子を受け継ぐ子孫は約70世代で倍増する」などと言って恥じない進化学者は「創始者は1個体」という事実も数代で消滅する可能性も意図的に隠蔽している。正直に創始者から記述するなら、1個体が一世代の繁殖で1.01個体に増え、その70乗で2個体に倍増すると言っているのに等しいが「1.01個体」とは一体何か?

創始者の1個体が配偶者を得て2個体の子供を繁殖した場合、突然変異遺伝子を受け継ぐ子の個体数は、1.01などという半端な数は有り得ず、0か1か2のいずれかしかない。0なら消滅、1なら現状維持、2なら倍増である。だから、ほとんどは数代で消滅する運命だが、たった一代で倍増することも25%の確率であるのだ。これは強大な偶然の力による倍増であって、1%の有利さなど最初の数代ではゼロに等しいのである。ゆえに進化とは純粋に偶然の力で起きる現象であり、自然淘汰の出る幕はない、ということが(創始者からの数世代の変化を想像してみるだけで)直観的に分かる。

もちろん厳密には、生存の有利さが仮にあるとして、その効果と偶然の効果をどちらも計算に入れ、突然変異遺伝子が集団中で次第に勢力を拡大し、最終的に集団中の全個体にホモ接合で(父と母から同じ突然変異遺伝子を受け継いで)保有される(これを「固定される」と呼ぶ)過程を記述する微分方程式を立てて計算しなければならない。生物学者であると同時に数学者でもあった木村はそれを見事に解き、以下の式(1)を得た。(1)で、uは突然変異遺伝子の固定確率(最初は1個体に生じた突然変異遺伝子が、何世代かかっても最終的に集団に固定される確率)、Nは集団の個体数、sは淘汰係数(生存の有利さ)である。

        u=(1-e-2s)/(1-e-4Ns)・・・・・・・(1)

(1)で、s→0とすると中立突然変異の固定確率u=1/2Nとなるが、これは、固定される原因が完全なる偶然であるなら、集団中に保有される2N個の対立遺伝子が全て平等に固定される確率を持つと考えれば当然の結論である。ここでもしs>0つまり生存に有利であるならu>1/2Nとなるだろうが、問題はそのような例が実際に観察されるのか?ということである。分子進化学の発達により、様々なタンパク質について、その進化速度が測定できるようになった。その驚くべき結果を表1に示す。

タンパク質置換速度
フィブリノペプチド9.0
ラクトアルブミン2.7
パラアルブミン0.7
チトクロームC0.22
ヒストンH2A0.05
ヒストンH40.01
表1 各タンパク質の十億年あたりアミノ酸置換速度

表1を見ると、生存のために重要なタンパク質(例えばヒストン)ほど進化速度が遅く、重要でないタンパク質(例えばフィブリノペプチド)ほど速いことが分かる。自然淘汰説では有利な突然変異は重要な遺伝子で起きねばならないはずだが、重要な遺伝子の変化は有害な遺伝子異常となり、有利になどなるはずがない。それでも偶然で進化することはあるが進化速度はタンパク質が重要なものほど抑制される。そして最も速く進化した突然変異は全て有利でも有害でもない(つまり中立である)。大昔には使われていたが今は使われていない偽遺伝子とか全く無意味と思われるDNA部位も最速に進化することが分かっている。

だから我々は先ず「全ての突然変異は基本的に有害で排除される」という事実を認めねばならない。その中で最も有害でない「中立な」突然変異だけが速い進化を許されるのであって、中立進化が最速であるということは、進化の原動力は偉大な偶然の力のみであり「生存の有利さ」などではない(それはダーウィニストの幻想でしかなかった)ということを意味する。こうして中立進化説の真の功績を理解して頂いたところで、今回の区切りとしよう。

次回は、木村博士自身が絶対的に信仰してきた自然淘汰説を自ら否定してしまったことを受け入れられず苦悩して、上述の「中立説と自然淘汰説は矛盾しない」という根拠の無い願望を定説化してしまったこと、そして木村自身が成し遂げられなかった「中立進化説で実際の進化を説明する」という課題が簡単に解決できることを説明する。

東工大電子工学科卒、電気工学修士取得
米国の神学校に留学、宗教教育修士取得

政教分離は西欧の特殊事情によるもので、
もちろん、カルトは排除されるべきだが、
政治には健全な宗教性が絶対必要である。

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